「聞く」プレゼンの本質は「余白」を持つこと
広江 ファシリテーターとして活動している広江です。ファシリテーションといえば、「会議の進行役」というイメージが強いでしょうか。私が行っているファシリテーションでは、対話を通じて経営陣を一枚岩にしたり、パーパスや理念・ビジョンといった「会社ごと」を社員の皆さんの「自分ごと」にしたりする支援を行っています。
ファシリテーションでは、「間」を大事にしています。対話の中に「間」があることで、お互いの問題提起など空白を埋めようという動きが生まれます。この「間」を、プレゼンの中に持ち込めないかと考えました。今の時代、話し手が言いたいことだけを詰め込み、一方的に伝えるプレゼンが多いように思います。そこに、話し手と「聞き手」、話し手と「場」との相互作用を生み出せたら、本当にパワフルなプレゼンになるだろう。そんな思いで書き上げたのが、『問いかけて心をつかむ 「聞く」プレゼンの技術』(翔泳社)です。
プレゼンは「話す」ものなのに、なぜ「聞く」プレゼンなのか。まずは1枚の絵をご覧ください。この絵は、老子という中国の思想家が提唱した「水差しの例え」を表しています。老子は、水差しの本質は“虚”の部分にあると言っているんですね。水差しは中が空洞だからこそ、水の出入りが可能になる。同じ水差しのかたちをしていても、もし中の空白の部分が埋め立てられて、そこに水の出入りがなかったら、水差しとしての役割は果たせなくなってしまうんです。
プレゼンにおいても、同じことが言えます。商品やプロダクト、サービスの良さなど、こちらが伝えたいことを一方的にお客様に話してしまいがちですよね。7割はそれでかまいません。しかし、残りの3割は余白を持っておく。その余白、つまり“カラ”の部分が自分の中にあることで、お客様が求めていること、「場」が求めていることを捉えることができ、相互作用で豊かなコミュニケーションが可能になります。
これまでのプレゼンは、いかに自分の伝える内容を研ぎ澄ますかが注目されました。しかし、相手の価値観やニーズを聞いて、「場」にどんな反応があるか、どんな空気があるかを踏まえると、芯を捉えたプレゼンが可能になる。それが、聞くプレゼンの本質です。