OODAループとは?今注目される背景やPDCAサイクルとの違いを解説
OODA(ウーダ)ループをご存じでしょうか。目まぐるしく変化する状況で、臨機応変に思考と行動を変化させ、成果を導き出すための思考法であり、欧米では多くの企業がビジネスモデルに取り入れています。最近では日本でも取り入れる企業が増えてきましたが、名前は聞いたことがあっても、具体的にどのような理論かよくわからないという人もいるでしょう。
ここではOODAとは何か、PDCAとの違いも含めて解説します。
OODAループは変化の激しい時代の思考法
OODAループとは、アメリカの空軍パイロットであり、航空戦術家・軍事著作家のジョン・ボイドが提唱した思考法で、元々はパイロットのために編み出されました。航空戦の最中、上官の指令を待っているだけでは敵に攻撃されたり退避が遅れたりする可能性があり、命が危険にさらされてしまいます。刻々と変化する戦況の中、パイロット自身が素早く状況判断し、最適な行動を選択できなければなりません。
OODAループは、戦場のような変化の激しい状況でも、的確に素早く判断と行動ができるメソッドとして提唱されました。初めは軍事で利用されていましたが、今では政治や教育、スポーツなど、あらゆる分野で活用されています。シリコンバレーの企業がビジネスモデルとして導入したとして注目され、欧米の企業でも浸透し、数年前から日本でも徐々に広がりを見せています。
OODAループが注目される理由
現代は、VUCAの時代といわれています。VUCAは「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字を取った略語で、あらゆる物事が目まぐるしく変化し、将来の予測が難しい状態を指します。
IT技術が急速に進歩し、市場や消費者のニーズは激しく移り変わるようになりました。加えて、世界規模の異常気象や自然災害、未知のウイルスの流行など、ビジネスを取り巻く環境は急激に変化し、先を予測することは困難です。ビジネスで生き残るためには、そのときの状況に応じて素早く判断をし、行動に移すことが重要でしょう。
そういった状況から、素早く判断して実行するための思考法である、OODAループが注目されています。
OODAループの具体的なプロセス
OODAループは、「Observe」「Orient」「Decide」「Act」の単語の頭文字を取って名づけられました。4つのプロセスと思われがちですが、「ループ」も含め、5つのプロセスで行われるメソッドです。各プロセスについて、詳しく見ていきましょう。
Observe(観察)
Observeは情報収集のプロセスで、自分を取り巻く状況とその変化などを客観的に把握します。ここでのポイントは、「◯◯とはこういうもの」「◯◯はありえない」といった常識や経験、事前情報による思い込みにとらわれないこと。数字で表したり、5W1Hで問いかけたりして、事実を集めることが必要です。
Orient(理解)
Orientは、Observeで手に入れた情報を整理し、理解するプロセスです。なぜ起きたのか、今後どうなるか仮説を立て、次の選択肢を考えます。OODAループを生み出したジョン・ボイドは、このプロセスがもっとも重要としています。
理解には、「生まれ持った性格」「育ってきた文化」「経験則」「新たな情報」「観察結果の分析と統合」の5つの要素が絡み合うため、人によって大きく異なるでしょう。そのため、考えた選択肢が確実だという保証はありません。選択肢は正確であることより、理にかなっていること、筋道が立っていることを基準に考えます。
Decide(決定)
Decideは、Orientで検討した選択肢について、具体的な方法や手段を考えるプロセスです。実現可能性やリスクと成果のバランス、とれるアクション、実施の順番や方法などを考え、決定します。決定に十分な時間がかけられたり、裏づけに十分な情報が集まったりすることはまれです。考えなしにということではありませんが、ためらわずに決定しましょう。
Act(実行)
Actは、Decideで決定した行動を実行するプロセスです。決定した後は、即座に実行することがポイント。実行に時間がかかればObserveで集めた情報が古くなり、Orientの判断が正しくなくなってしまいます。失敗が伴うこともありますが、まず試し、それによって学ぶことが重要です。
ループ
ループは、フィードフォワード・フィードバックのプロセスです。Actの結果を振り返るだけでなく、前提を見直して再度考えるプロセスでもあり、ほかのプロセスの結果から前のプロセスに戻ったり、プロセスを省略したりします。たとえば、OODAループでもっとも重要とされるOrientは、1回では終わりません。ほかのプロセスからのフィードフォワード・フィードバックを受け、何度も仮説を立てて選択肢を考えることが重要です。
OODAループは順番にプロセスをたどるものではなく、柔軟に変化するのが特徴です。複数のプロセスを同時に行ったり、状況に応じてショートカットしたり、前のプロセスに戻ったりすることもあるでしょう。そのため、OODAループは臨機応変で、スピーディーな意思決定ができるとされています。
OODAループとPDCAサイクルの違い
ビジネスでよく使われる管理手法に、「PDCAサイクル」があります。これは、「Plan(計画)」「Do(実行)」「Check(評価)」「Action(改善)」の頭文字を取ったもので、PDCAを繰り返すことで継続的に業務を改善する手法として生み出されました。最後のプロセス「A」の後は、また「P」に戻るという一連の流れから、PDCAサイクルと呼ばれます。
OODAループとPDCAサイクルは、ビジネスシーンでよく比較され、「どちらが優れているか」という話になりがちです。しかし、そもそもこのふたつは目的が違います。
PDCAサイクルは、元々は製造業の生産管理や品質管理に使われていました。まず、計画を立てるところから始まり、実行結果をもとに計画を適宜修正するため、すでにある商品やサービス、工程が明確な業務などの改善に適しています。外的要因による変化は考慮されておらず、計画どおりに業務を進めるプロセス管理の手法です。
一方、OODAループは、変化が起こること、工程が決まっていないことを前提に、今ある情報をもとに仮説を立て、最適な決断をするための思考法です。新規事業の立ち上げや商品開発などでは、そもそも根拠となるデータが存在せず、計画を立てようがありません。そういった場合にPDCAサイクルは適さず、OODAループが向いているといえます。
PDCAサイクルが「どのように改善していくか」を考えるマネジメントの手法であるのに対し、OODAループは「何をするか」を考えるオペレーションのための手法です。どちらが優れているというものではなく、シーンに合わせて使い分けるものだと言いえるでしょう。
OODAループを使った営業提案の例
OODAループは、営業提案で取り入れることも可能です。営業提案の場では、練り上げた壮大な提案書を提出するより、簡易な案を即座に出して軌道修正をしたほうが、クライアントの心をつかめることも少なくありません。 ここでは、営業提案の際にOODAループを活用する例をご紹介します。
Observe
市場、競合、商品・サービス、実績など、クライアントを取り巻く環境の情報を手に入れます。注力したい領域、売上目標、リソースなど、自社を取り巻く情報についても情報を収集しておかなければなりません。ヒアリングした内容や、そのときのクライアントの表情など、できるだけたくさんの客観的情報を集めます。
Orient
Observeによって見えてきたクライアントの課題と、自社でできるソリューションを掛け合わせて、提案内容を考えます。提案内容でクライアントが納得できるか、成功を予期させられるかを基準に考えましょう。実績の裏づけが足りない、リソースが足りないなど、不安材料があればObserveに戻ります。
Decide
ソリューションの実行方法を考えます。どのように提案するか、どうストーリー展開したらクライアントの心に響くかはもちろん、社内でどのようなチームを組むか、外注先はどこかなど、具体的な方法と手段を考えます。
Act
Decideで判断したことを実際に行動します。決めたら迷わず、即座に行動に移してください。
ループ
提案が受け入れられれば、次は考えたソリューションの内容についてOODAループで考えます。修正して再提案になった場合は、ObserveやOrientに戻って変化した情報がないか、思い込みによる間違いはないか、前提を洗い直してください。完全に失注ということになれば、別の機会やほかのメンバーのObserveに活かせるよう、事例として共有しましょう。
OODAループは現代に適した思考法
OODAループには、論理的な判断と直感のバランスが重要です。そのとき置かれた状況から判断し、ただちに行動に移すことがポイントですが、考えなしではいけません。直感というと、いい加減そうで、一部の天才にしか使えないイメージもあるでしょう。しかし、直感は単なるひらめきではなく、積み重ねられた経験や知識があってこそ。常日頃から自身の見聞を広め、深く考えなくても「◯◯は△△だ」とわかるような原則や型をたくさん持っておくことで、直感は研ぎ澄まされます。
未来が予測できないVUCAの時代に、上司の指示を待って、じっくり計画してという働き方では、ビジネスにおいて後れをとってしまいます。OODAループは、現場が自立して的確な判断を下すための思考法です。プロセスを意識することで、そのとき目の前に現れた状況で、最適な行動がとれるようになるでしょう。