パーソル総合研究所は、「学び合う組織に関する定量調査」(調査対象は全国の男女・正規雇用就業者(20~60歳))の結果を発表した。
調査概要
- 調査名称:パーソル総合研究所「学び合う組織に関する定量調査」
- 調査内容
正規雇用就業者の組織全体の学び実態を明らかにする
組織的な学び促進のための施策検討のための示唆を得る- 調査手法:調査会社モニターを用いたインターネット定量調査
- 調査期間:2023年10月24日~27日
- 調査対象者
全国の男女・正規雇用就業者(年齢20~64歳)
令和2年国勢調査で性年代を割付
合計6000s
※一部業種除外、役員以上の役職者を除外- 実施主体:株式会社パーソル総合研究所
実施の目的
本調査は、正規雇用就業者の組織全体における学びの実態を定量的に明らかにするとともに、組織的な学びを促進するための示唆を得ることを目的に実施された。
急速な環境変化によるスキルアップデートの必要性や高齢化によるキャリアの長期化などを背景に、人的資本経営やリスキリングの必要性が注目され、企業の人材開発や育成への関心が高まっている。一方で、「社外学習を何も行っていない人」の割合は、世界の中でも日本人が突出して高く、自発的に学ぶ習慣の欠落は深刻である(パーソル総合研究所「グローバル就業実態・成長意識調査(2022年)」 )。国や企業が学びの機会だけをつくっても、学ぶ側の就業者が一部にとどまっているのが現状であり、持続的に学び合う組織づくりの重要性が改めて問われている。
就業者が学習から遠ざかる要因となる7つの「ラーニング・バイアス(学びについての偏った認識・意識)」
日本の企業における「学び合わない組織」の創られ方
就業者の学びの実態
業務外の学習時間は、56.1%が無し。学習し続けている期間は、13.1%の1~3年未満をピークとしておおよそ正規分布している。
学習方法は「どれも行っていない」が過半数を超える。もっとも多い学習方法は「WEBページを読む」で16.6%、次に「書籍・専門書を読む」で16.5%。過去3年の研修受講経験も72.7%が「ひとつもない」。内容別には、「個別の業務に関するスキルアップ研修」が10.6%。
年代別に見ると、男性は40代以降、女性は30代以降、学習意欲も学習時間も大きく減少している。
「研修無し(過去3年間)かつ学習無し」という層が、全体で48.5%。とくに女性・小規模な企業でやや多い。
学習者(週1時間以上学習)は無学習者と比べ、はたらくことを通じて幸せを感じている実感が20.3%高く、ワーク・エンゲイジメントも17.3%高い。また、多視座性・時間軸の長さといった思考の広さ・柔軟性を示す指標も高い傾向(数値は無学習者を100%としたときの学習者の%)。
ラーニング・バイアスの実態
学びから遠ざかる要因となる、学びについての偏った意識を、ラーニング・バイアスとして7つ特定。「新人」「学校」「自信欠如」「地頭」バイアスなどが、学習意欲を下げる。「現状維持」「タイパ」「現場」バイアスなどは、学習時間を短くしている傾向が確認された。
バイアスの高低を、平均値を基準としたヒートマップとして図示すると、性年代別には、男女とも50~60代で「新人」バイアスが強い。男女とも20~30代は「地頭」バイアスが高い。女性の40~60代は「タイパ」バイアスと「現状維持」バイアスが強い。
学んでいることや学習内容を他者と共有しない“秘匿化”
56.2%の学習者が、自身の学びについて状況や内容を同僚に共有しない。上司やその他社内関係者についても約6割が共有しない。学習している管理職も、47.8%が同僚に「言わない」。
学習行動の過半数が職場で秘匿化されることで、職場において可視化されている(職場で共有されている)学びは、全体で19.7%。
学習秘匿を促進してしまう要因として、「学びは一人で行うもの」という独学バイアスや、共有しても周囲が関心を示さなそうだという「無関心予期」、転職や異動を考えている/出し抜こうと考えていると思われるという「裏切り者予期」などの要因が影響している。
学び合う組織を創るためのポイント
学びに関する自己認識(セルフアウェアネス)を「学び方」「キャリア」「スキル」の3つの次元に分け、それぞれ内部(自己)の視点と、外部からの視点で測定した。
自身のキャリアやキャリアパスなどについて認識する「キャリアの自己認識」、興味・関心やスキルなどを自己理解・評価する「スキルの自己認識」、学習スタイルなどについて認識する「学び方の自己認識」はすべて学習意欲に対してプラスの関連がある。スキルの自己認識と学び方の自己認識は、学習時間とのプラスの関連も見られた。
自己認識に対しては、仕事上の経験の中でも学びの相談経験がもっとも強くプラスの影響。また、他者との協働的な学び経験であるコミュニティ・ラーニングの経験が広くプラスの影響が見られた。
組織文化と学習意欲・学習共有との関連を見た。学びの「活用文化」「共有文化」「奨励文化」が高い組織は学習意欲が高く、学習共有が進んでいる(秘匿度が低い)。
メンバーの学びと上司マネジメントの関連を見た。上司自身の学び行動が、部下の学習意欲・学習時間・学習共有にプラスの関連が見られた。
「学び合う組織」の全体モデル
学び合う組織づくりに有効と考えられるのは、 (1)バイアスの存在を含めた個人の学びに関する自己認識(セルフ・アウェアネス)を高めるためのワークやカウンセリング機会を取り入れること、(2)個人単位の学習ではないコミュニティ・ラーニング機会の拡充、(3)組織全体の学び合う組織の現状を測定し、総合的に改善を図ることなどが挙げられる。