2020年7月29日、HubSpot Japanは世界のHubSpotユーザーのデータから読み解いた「COVID-19によるマーケティングおよび営業へのインパクト」と自社のビジネス戦略をオンラインにて発表した。
HubSpotは世界7万社以上のユーザーデータを匿名化し2020年4月より毎週マイクロサイト上で発表してきた。2020年1~3月期(1/13週〜3/23週)をQ1、2020年4~6月期(3/30週〜6/22週)をQ2として週次データで比較し、同社が読みとった変化は以下の3つ。
- 買い手の情報収集と売り手の情報発信、両方がオンラインで活発化
- 買い手の新しい情報収集チャネル「チャット」が存在感を増している。
- 営業担当者の連絡手段が、電話からメールへ。取引(商談)の成約数は低下
Q1と比較しQ2の企業ウェブサイトへのアクセスは世界で16%、日本では13%増加。さらに、マーケティングが配信するメルマガによるコミュニケーションも活発化している。グローバルでは送信率が21%増、開封率は9%増だ。さらに、日本のメール送信率は149%増と、増加率は世界最大となった。
また、ビジネスチャットによる問い合わせのボリュームもグローバルで31%増えている。同社共同事業責任者 シニア マーケティング ディレクターの伊佐氏は「今後企業間でもリアルタイムかつ双方向性のあるコミュニケーションを実現できるツールの導入が世界的に進んでいくと考えています」と述べた。
一方で、営業担当者から顧客へ送付するメールもグローバルで44%増加したが、返信率はなんと24%減。営業部門の取引成約も、4月に底値を記録し最終的には1Qと比較し11%減。マーケティングやチャットによる顧客のエンゲージメントは高まっているものの、営業活動によるエンゲージメントは一時的に下がったことがわかっている。
「オンラインコミュニケーションが活性化することで、オンラインで見つけてもらったあとに、見込み客を適切にフォローする仕組みの構築が必要となります。マーケティングが有益な情報をメールで送り自社サービスや製品をよく理解してもらう。そして、適切なタイミングで営業がフォローアップできなければなりません。そのひとつの手段として企業サイトにチャットを導入したり、TwitterやFacebookなどのSNSの運営に力を入れたりするのも良いかもしれません」(伊佐氏)
顧客とのエンゲージメントや取引数が減っている営業組織については、「営業コミュニケーションの質を今まで以上に高める必要があるでしょう」と伊佐氏。また、営業組織における影響のパターンは会社によってさまざまだ。見込み客が増えてフォローアップできる営業が足りていない企業は、まずは事務作業を減らし、営業1人ひとりの生産性を高めるテクノロジーの導入が必要かもしれない。もしくは、顧客のステージに合わせてコミュニケーションの大枠を設定し、営業活動の質を担保することから始める必要があるかもしれない。
同社カスタマーサクセス サービス マネージャー豊倉氏より、まさに営業のコミュニケーション設計を見直したFlucle社の事例が紹介された。ウェブ完結型労務管理ツール「HRbase」を提供する同社では、コロナ禍でサービスサイトへのアクセスが急増した。既存の営業体制で適切なフォローが難しい状態となったため、あらためて理想の顧客ペルソナとバイヤージャーニーを全社で作り込んだ。
そうすることで、見込み客がツール導入のステップやトライアル期間のどこで立ち止まり、困りやすいかを明らかにした。加えてその内容をHubSpotに連携したことで、営業担当者はHubSpot上から一辺倒ではない、顧客の困りごとに合わせたコミュニケーションを効率的に実施できるようになった。
最後に、同社共同事業責任者 セールスディレクターの伊田氏が登壇。HubSpot現状と今後の戦略について述べた。
HubSpotはグローバルでは年平均41%の成長を続けている。7月1日には時価総額が100憶ドル(日本円で約1兆円)を超えるなど、マーケットからの評価も高まっている。そして、本国である米国以外の成長も注目のポイントだ。
2014年第3四半期は本国以外の売上は全体の22%。約8割が本国の売上だった。直近の2020年第1四半期は42%を本国以外が占めている。また、本国以外の成長率は年平均で51%。「いずれ本国の売上をそれ以外の市場の合計が超える可能性もある」と伊田氏は述べた。
伊田氏は同社の成長のエンジンとなっているのは「製品のすべてにあるインバウンド思想」だと語る。
「MAやCRMはものを売る側の考え方で設計されますが、HubSpotは逆です。ものを買う側が『欲しくなって買う過程』をスムーズにするためのツールです。購買者が知りたいときにブログを読み、資料をダウンロードできる。よく読んでいるから、メルマガが届く。必要な情報を適切な手段で見込み客に届けるのがHubSpotの設計です」(伊田氏)
なお、インバウンドの語源には、創業の地・ボストンの地下鉄が関係しているという。ボストン市内から郊外へゆく路線が「アウトバウンド」、郊外から市内に入る路線が「インバウンド」と呼ばれていたことから、「顧客が惹きつけられる」ことを「インバウンド」と呼ぶ発想が生まれたそうだ。
HubSpotは2006年の創業以来、スタートアップを中心にマーケティングソフトウェアを提供してきた。2014年以降は、セールスやサービスなどにスコープを広げながら単体のソフトウェアではなく、プラットフォーム、さらにはスイートへと変化してきた。
スイートへの成長を遂げるなかで、日本でも幅広い規模の企業へ導入が進み始めている。なお、日本のユーザーのうち約4割が同社の複数製品を利用している。
同社の販売戦略において重要なのが、導入から運用、コンテンツ作成などを支援するソリューションパートナーだ。グローバルでは41%がソリューションパートナー経由の販売であり、日本も近い数字だという。なお日本のソリューションパートナーは2019年6月期と比較し87%増加している。
2020年上半期に同社がグローバル共通で実施したのは、「Marketing Hub Enterprise」の機能強化、ウェブサイト制作を支援するCMS Hubの提供、そしてABM機能の実装だ。日本市場独自の動きとして、クラウドIP電話「MiiTel」、会計ソフト「freee」、名刺管理システム「Sansan」、ABMツール「FORCAS」、企業データベース「ランドスケイプ」などとの連携が進んだ。
今後は、日本独自のソフトウェア製品連携をさらに進めていくと伊田氏。加えて、販売パートナーの多様化も目指す。これまではコンテンツ制作などを実施できるマーケティングコンサル企業が中心だったが、セールスやサービスのソフトウェアも提供しているため、包括的な提案・支援が可能なビジネスコンサルやSI企業へと協業を広げていくという。ローカライゼーションも引き続き注力するポイントだ。製品自体を正しい日本語で表示することはもちろん、日本ユーザーにとって見やすいUIにこだわっていく。
2016年立ち上げ時には10名ほどだった日本法人も現在は40名を超える組織へと成長したHubSpot。「今後も、幅広い規模の企業のセールス・マーケティング活動の支援を行いたい」と伊田氏は意気込みを語った。