ふたつの技術の進化により、大企業の営業改革が加速
──インタビュー連載「高橋浩一さんがゆく! 大企業のセールスイネーブルメントの工夫」では、3社の大企業にインタビューを実施していただきました。編集部としても営業改革/セールスイネーブルメントに挑む大企業が増えてきたと感じています。
まさに。10年ほど前は「営業の人数が3ケタ以上の規模」の大手企業であっても、本社が営業の現場には介入しないケースが多かった印象です。「営業は売上を上げて役割を果たしているのだから、本部から横やりを入れるな」という感じですね。改革に取り組もうとしても、「現場をわかっているのか?」と疑問の声が出るケースが多かったはずです。

東京大学経済学部卒業。外資系戦略コンサルティング会社を経て25歳で起業、企業研修のアルー株式会社に創業参画(取締役副社長)。事業と組織を統括する立場として、創業から6年で70名までの成長を牽引。同社の上場に向けた事業基盤と組織体制を作る。2011年にTORiX株式会社を設立し、代表取締役に就任。これまで4万人以上の営業強化支援に携わる。コンペ8年間無敗の経験を基に、2019年『無敗営業』、2020年に続編となる『無敗営業 チーム戦略』(ともに日経BP)を出版 、シリーズ累計10万部突破。2021年『なぜか声がかかる人の習慣』(日本経済新聞出版)、『気持ちよく人を動かす』(クロスメディア・パブリッシング)、2022年『質問しだいで仕事がうまくいくって本当ですか? 』(KADOKAWA)、2023年『「口ベタ」でもなぜか伝わる 東大の話し方』(ダイヤモンド社)を出版。2万人調査の分析に基づき、2024年4月に発売された新刊『営業の科学』(かんき出版)は、6万部を超える反響を得ている。2024年4月から東京学芸大学の客員准教授も務め、「”教育”と”営業”の交差点」を探究している。また、東京都内で「人生のヒントが見つかる」をコンセプトにしたリアル書店も経営。
──なるほど。そもそも一般的な大手企業では、本部と各営業現場の距離が想像以上に遠いのだろうなとも感じます。一方で、今回の連載ではその距離を感じさせないような連携もありましたね。
まさに。5年ほど前のセールスイネーブルメントは、SmartHRさんやマネーフォワードさんのような、SaaSを提供するメガベンチャーが取り組むものでした。ある種、変化に前向きな人たちが集まる企業の中で、チャレンジがスタートしていた印象です。2025年現在は「工夫をすれば、自社でも実行できるのではないか」という肌感覚の大企業が増えてきたのではないかなと。
この背景にはふたつの技術の進化があると思っています。ひとつは言わずもがな「IT技術」です。SFA/CRMのようなSales Techの活用で、大人数の組織でも一気に仕事のやり方を変えられるようになりました。もうひとつは「組織の技術」。組織体制の変更や、組織の動かし方、方法論が進化していると感じています。両方の技術の発達、成熟によって営業改革は格段にやりやすくなりました。
──改革のためのインフラが整い、筋力もついてきたようなイメージですね。ある意味、「営業に投資」することの必要性が広がってきたようなかたちでしょうか。
これまでは、営業に対して採用以外で大きな投資を行っていた企業は少ないのではないでしょうか。いまは、積極投資領域の筆頭かもしれませんね。
先日2,600名ほどの買い手の方々に行った調査で、「昭和型営業の終焉」を示すような面白い結果が出てきました。お客様との関係構築に関する設問で「営業担当の各行動はあなたとの関係を深めるのにどれくらいプラスに影響しますか」という問いを立てました。

上位4つにのぼったのは「スピードや質」、いわゆるできる営業が当たり前に実行すること。5~6番めは、時間をかけて頑張る「奉仕の営業」。そして下位の5つは「感情訴求」に関するもの。要は、この感情訴求の順位がいまは非常に低いんですね。機能的価値が圧勝している結果となりました。
営業への投資の話に戻ると、営業組織のトップを務める方の多くは、感情訴求も行いながら成果を挙げてきた人たちです。一方で、コロナ禍を経て、感情訴求のみで戦うのは難しくなってきました。オンラインでは雑談がうまくできない、会食や懇親会も多く実施できないなど。
そんなリアルな状況をふまえ、セールスイネーブルメントの取り組みを強化し、機能的価値の底上げを行うことが合理的になってきたという背景もあるのではないかと思うわけです。