人事と営業部門が連携するセールスイネーブルメント
──今回インタビューした3社さまについても振り返っていければと思います。パナソニック コネクトさまの事例で印象的だった点について、教えてください。
私は、営業改革やセールスイネーブルメントには共通言語が必須だと思っているのですが、組織内の言葉を大切に改革を進めていたのが印象的でしたね。
最近は、事業部の中に人事チームをおく「HRBP(Human Resource Business Partne)」への注目が高まっています。パナソニック コネクトさんの場合は、事業部側に寄り添う本部(企画組織)が事業部(営業部門)に寄り添いつつ、全社を見ている人事としっかりコラボするという座組みを持っていらっしゃいました。これは大企業だからこそやりやすいものではないかと思っています。
──大企業だと、なぜ推進しやすいのでしょうか。
大企業では研修の頻度が高いです。そのため、人事の方々の能力開発の力が高いことが多いんですね。人事組織が育成の方法論をきちんと持っているんです。
ただその分、現場の深い理解には課題があるケースもあります。パナソニック コネクトさんのケースは現場との距離感を大事にしている企画側と人事が一枚岩になることで、疑似HRBPのようなスタイルが実現できていました。人事のプロと現場のプロがうまく連携した仕組みだと思います。

──なるほど。研修のつくり方も面白かったですよね。
上司1名と部下2名の3名セットで研修を受ける仕組みがありましたね。これは、人と組織に明るい人でないと出てこない発想だと感じます。上司1名と、部下1名だとどうしても上司の影響力が大きくなってしまうものですが、部下2名と参加することで、上司も対等に研修を受けやすく、組織で活用できる共通言語の持ち帰りもしやすくなります。
また、営業組織だけで取り組むと、すぐに「売上」に答えを求めることになってしまいがちなのですが、その指標だけではなく、「ビフォーアフターの行動変容に注目する」というのは人事的な発想だと思いました。大手企業ほど、1人ひとりのスキルの向上が結果にすぐ反映されるわけではないからこそ、能力開発の視点、長い視点で育成を見ることができるのでしょう。
SFA活用は大型投資 営業力強化が同時に必要なワケ
──人や組織に対しての解像度の高さというか、ご自身たちも楽しんで改革に取り組んでいる姿が印象的でしたね。ニコンソリューションズさんはいかがでしょうか。
本部長・役員クラスと、現場の営業マネージャー、そして企画部門の三位一体での改革がうまくいっているケースです。共通言語として、「アーリーフェーズアップ」という言葉が出てきました。通常、営業の現場では受注、もしくは受注に近い案件ほど褒められやすいものですが、それだけではなく商談の初期段階(アーリーフェーズ)での案件登録を促進する取り組みが行われていたのです。こうやって現場の価値観を変えるには、経営層のコミットが不可欠ですが、それがうまく実施されていました。
──SFAが取り組みの中心にしっかりとありましたね。経営層や企画はもちろんですが、現場の営業マネージャーがSFAの活用にコミットしている点も印象的でした。
大企業のSFA投資は金額の面でも、活用人数の規模の面でも、大きなプロジェクトなんです。だからこそ、そこにコミットする意識が全社でも生まれていったのだと思います。
一方でSFA活用の難しさについて、「現場が忙しくデータを入れてもらえない」というものがよくありますよね。ただ、私は入力されない理由はそれだけではないと思っています。たとえば、自分の営業プロセスがすべて可視化されることに不安を抱いている人が入力しないケース。つまり、自分の能力や行動を正直にすべて見せることが怖い、透明性への抵抗感が存在するんです。結果的に組織としての使い方が中途半端になれば、正しくデータも蓄積されず投資の意味がなくなってしまいます。
ニコンソリューションズさんが入力課題をクリアできたポイントは、SFA投資と同時に営業力の強化に挑んでいる点にあるかもしれません。SFAの投資を本気で意味あるものにするために、ほかの組織も巻き込みながら、営業ロープレを継続して実施されていました。大規模なIT投資を行っている大企業にとって、かなり参考になる事例ではないかなと思います。